「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命―」感想

「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命―」観てきました。

仙台市博物館では、2013年3/1~5/6まで、その後、岩手県立美術館、福島県立美術館で順次開催されます。

今回の展覧会は、東日本大震災の復興支援のために、アメリカのプライス夫妻のご好意によって企画されたもの。

東北の子供たちに、元気を取り戻して欲しいという願いから、展示構成も工夫されている。

【岩上猿猴図】(岩のうえのサル)のように、オリジナルの作品タイトルに、子供向けの作品タイトルを並べて付けたり、解説をクイズ形式にして、絵解きを実際に楽しめるようにしたりと、江戸絵画を楽しむのに有効な仕掛けになっているのが特徴だ。

また、子供だけではなく、大人にとっても、日本でまだ若冲が注目される前から江戸時代の作品を収集していたという、プライスコレクションの先見性と厚みを、実際に観ることが出来る数少ない機会である。

「若冲が来てくれました」と銘打っているものの、伊藤若冲にとどまらず、円山応挙、曽我蕭白、長沢芦雪、酒井抱一、鈴木其一、亀岡規礼、河鍋暁斎、…とそうそうたる画家の作品が来ている。

僕が、まず心奪われたのが、序盤に登場する、葛蛇玉の【雪中松に兎・梅に鴉図屏風】(雪の夜の白いウサギと黒いカラス)

この屏風の前に立った時に、
「これは完成した瞬間はさぞ気持ち良かっただろうな」
と感じたのだ。

時空を越えて、葛蛇玉と一緒に、屏風に白い絵具で一心不乱に雪を散らしている自分がそこにいた。

僕は、自分も絵を描いているからなのか、絵画を鑑賞する際に、画家がその作品のどこをアピールポイントにしているのか分かることがある。

しかし、自分がまるでその作品を描いているかのように感じるというのは初めての体験で、これは素晴らしいものであった。

そして、生き生きとした江戸絵画の数々は、どれも素晴らしいものばかり。

技法を追求する一方で、常に遊び心を忘れず、また観るものを楽しませる心にあふれた作品の数々。

そこで僕は、最近の自分の絵に対する評価が、それが自分の描いたものであれ、他人が描いたものであれ、上手いか下手かといった二元論に囚われていることに気付いてハッとしたのだ。

幼い頃の自分は、ただ絵を描くのが楽しいから、それを描いていたのではなかったか。

若冲の絵、なかでも動植物の絵の一部は、博物画としてもとらえることが出来る精緻なものだ。

自ら飼育していたという鶏の正確な描写を観れば、彼の技術の高さは容易に伺える。

しかし一方で、若冲は、実物を見たことがない虎を、当時の限られた資料を模写し、後には自らのイメージで描いている。

描きたいから描く。楽しいから描く。

そんな思いがあふれているのが、今回の目玉作品である、
【鳥獣花木図屏風】(花も木も動物もみんな生きている)
だろう。

そこには様々な動植物が、実在、空想の区別なく、生き生きと描かれている。

色鮮やかなその絵は、どうやって描いたのだろうかと思う細かいマス目模様の集合で構成されている。

そう、これはおそらく若冲の曼荼羅なのだ。

東日本大震災のニュースを見た悦子夫人が、この作品だけでも日本に持って帰ろうと思ったというこの作品が、本当に感動と力を与えてくれる。

自分も被災者という立場で、復興への活動と自分の今後を模索する身として、素晴らしいものを観せていただき、とても元気をもらった。

美の力は素晴らしい。復興支援というのは、さまざまな形があるのだな。

そう思い、心から感謝したのであった。

まだの方は是非。感動します。おすすめ。

展覧会カタログも購入しました。こちらも素晴らしい内容でおすすめです。

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