「ゴッホ展 空白のパリ時代を追う」感想

ようやく宮城県美術館にて、念願の「ゴッホ展」観てきたわけだけど、予想に反してこれは難易度高いと思う。

フィンセント・ファン・ゴッホといえば、まず思い浮かぶのは「ひまわり」「星月夜」「アルルの跳ね橋」などの、うねるような描線と独特な色使いの作品だと思う。

しかし、今回のゴッホ展は「空白のパリ時代を追う」のサブタイトル通り、ゴッホが前述の作風を確立する前の作品が中心となっている。

この展覧会を観て、やっぱりゴッホは上手いわ~と、手放しで褒めることは難しい。

そう、そこに冒頭の、難易度高いという言葉の意味がある。

だって、誤解を恐れずに言うならば、この展覧会のゴッホの作品は、下手だ。

最初に展示されている「農夫の頭部」も、正直びっくりした。

ゴッホってこんなに下手だったのか?

とにかく、観る作品が驚きの連続である。

非常に安定感がないし、デッサン力もかなり怪しい。

作品ごとの完成度にバラつきがあるならいざ知らず、その不安定さは1枚のカンバスの中にさえ及ぶ。

1枚の作品の中で、カンバスの一部は完成度が高いのに、別の部分では嘘だろというくらいにクオリティが下がる。

なぜ、この作品をここで完成としたのか?

もうちょっと手を入れた方が良かったんじゃないのか?

観ている間中、頭の中が疑問符だらけ。

そして、その答えは意外にもカンバスの外にあった。

それが、作品のネームプレートだ。

作品のネームプレートや目録には、その作品の制作年代が記入されている。

この「空白のパリ時代を追う」の作品群は、およそ2年間のパリ時代の作品を中心に展示されている。(※1)

2年間?

嘘だろ?

2年間でこの数って、油彩のペースじゃないぞ!

油絵具は、非常に乾燥に時間がかかる画材だ。

乾燥が遅いことが、油絵具のメリットでありデメリットでもある。

メリットとしては、他の画材に比べて、修正が容易であること。また試行錯誤に向いていること。

デメリットとしては、意図的に混色するのでなければ、塗り重ねる際にいちいち乾燥時間が必要なこと。

それゆえに油絵の制作には必然的にある程度の時間が必要になる。

それにもかかわらず、この大量の作品。

おそらくゴッホは、油絵具の乾燥すら待てなかったのだろう。

そして、およそ短期間とは思えない作風の劇的な変化。

また、特に遠近法を強調する必要がないと思われる作品に、パースペクティブフレームを使用したりする実験的な姿勢。(※2)

なるほど…。

ゴッホは、自分がブレイクする作風を必死に探していたのではないか?

そして、生前絵が1枚しか売れなかったというゴッホには、それは非常に火急の問題であったはずだ。

その焦燥感と疾走感は、この空白のパリ時代を経て、アルルへ渡り、この2年後に悲劇の死を迎えるまで続くのだ。

今回のゴッホ展は、いわゆるゴッホと言われて思い浮かべる印象の作品は少なめである。

しかし、ゴッホの作品が最終的に人々の心を打つようになる過程を何より雄弁に物語っているのがこれらの作品なのであろうと思う。

ゴッホ展イラストレーション

ゴッホ展にてパースペクティブフレームを知る。

(※1)展示されている52作品のうち、ゴッホの作品が51、パリ時代の作品が44。カンバスに重ね描きされているもののあるので、その制作数はもっと多いと思われる。

(※2)パースペクティブフレーム:遠近法の作品を描くためにゴッホが使った補助枠。枠の中に放射状に糸を張っている。CGソフトではパース定規など同等の補助機能があるものがある。

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