
“ふむ”

“この線で良いのか?”

“いや こっちの方が”

“(独り言)”
しばらく前からデッサン会に参加させてもらっている。
モチーフは裸婦のモデルさんである。
裸婦のモデルさんを目の前にしてデッサンするのは初めての経験だ。
そもそも、何人かで一つのモチーフをデッサンするというのは、専門学校以来のことであるので、これまたずいぶん久しぶりなことだ。
えーと、計算してみると何と16年振りである(!)
イーゼルを立て、スケッチブックを置き、鉛筆でデッサンする。
基本的には、良い描線を探す作業だ。
この線で良いのか?
今の線はなかなか良かった。
こんな繰り返しである。
そんなことを繰り返しているうちに、ふと頭に浮かんだのが、「バガボンド」の宮本武蔵だ。
「バガボンド」の宮本武蔵は、良く森の中で素振りをする。
自分の中の理想の剣を反芻しているのだ。
なるほど。
そういうことなのか。
デッサンで線を引くということも同じようなことなのだ。
武蔵が劇中で、書画をたしなんでいることも理解できる。
基本的には、同じことなんだな。
そして、デッサン中に感じたもう一つのこと。
静かだなぁ。
若い頃の僕のデッサンは、人より上手くありたい、という「我」の部分が多分にあった。
専門学校であれば、点数がつけられ優劣が決められるし、若い頃ってそういうもんだとも言える。
しかし、現在はそういった感情がほとんどないのだ。
心の中が静か。
他人と比べる必要もなく、自分が今引いた1本の線を、次の線が越えられるか、どうか。
自分の現在の精神の有りように気付いた面白い体験だった。
まぁ、でもここから先に邪念が出てきたりしちゃうんだよね。
スランプとか、そういうこと。
その辺が、奥深いところ。
武蔵には、遠い。